研究紹介
研究紹介
私の研究の大きなテーマは人工子宮・人工胎盤システム研究になります。
日本の周産期医療の成績は世界の中でもトップクラスですが、早産率は5~6%程度で高止まりしていると言われています。
また、高齢出産化に伴いこの傾向は今後も続くと考えられており、早産は大きな課題として横たわっています。
さらに、現在の新生児治療では妊娠22~23週くらいが治療の限界点、いわゆる「成育/生育限界」と言われていますが、これは肺機能、循環機能、皮膚の成熟を含む免疫機能の未熟性があるからと考えられています。
生まれてくる赤ちゃんのためには、お母さんの子宮の中で成長を続けることが最善であることは分かっているが、母体側・胎児側の様々な理由によって早産→新生児治療に方針を転換しなければ胎児が子宮の中でどんどん具合が悪くなってしまう、あるいは最悪亡くなってしまう、そういったシチュエーションは総合周産期母子医療センターでは珍しくありません。
これらの「成育/生育限界」の赤ちゃんの生存率を少しでも上げるための基礎的なデータを得るために、我々は妊娠ヒツジを用いた「人工子宮・人工胎盤システム」研究をスタートさせました。
実験当初は、極度の乾燥に伴う循環血液量の減少、人工胎盤回路の負荷に伴う心不全などによって、なかなかデータを得ることができませんでしたが、人工羊水の導入、人工胎盤回路の並列化、人工臍帯の素材・硬度改善などの様々な工夫によって現時点では2週間程度の生存は可能になってきました。
現在はこの人工胎盤・人工子宮システムを使って、さらに小さい赤ちゃんに、より安全に装着できるように基礎データを積み上げているところです。
この人工胎盤・人工子宮システムのもう一つの特徴として、母親の子宮内環境を擬似的に再現しながら、直接胎児にアクセスできることが挙げられます。
つまり、先天的な形態異常症に対して、患者さんである胎児に直接的に治療をすることができるということです。現時点では、先天的な形態異常症を有した胎児は、その治療の可能性を考慮して「出来うる限り成熟と成長を」という観点から、妊娠を継続することが一般的です。
しかしながら、その成熟と成長を期す妊娠継続期間中に、先天的な形態異常症が不可逆的に悪化してしまう場合や形態異常症に起因する機能的な問題が発生し、分娩後に最適な治療を施せないことが少なからずあります。
これらのジレンマを解消すべく、人工胎盤・人工子宮システム上での胎児外科的手術や胎児カテーテル治療の可能性を検討しています。
人工胎盤・人工子宮システムというプラットフォームは、上述した以外にも内科的な治療や胎児の生体機能の発生研究に使用できる他、母体からのシグナルや本来の胎盤・臍帯・羊水を持たない「母体・胎盤・臍帯・羊水ノックアウトモデル」であることより、引き算によってこれらの本来の機能、まだ解明されていない機能解析にも使用できる可能性を有しています。