研究紹介
研究紹介
赤ちゃんが満期より早く生まれる早産(妊娠22 週から36 週までの分娩)が世界的に増加しています。
少子高齢社会の周産期医療において、早産児を救うことは重要な課題の一つです。
また、早産児が新生児集中治療室(NICU)に入院すると、退院までに、早産児一人に対し多大な医療費が発生し、病院や家族に負担がかかります。
ところが驚くべきことに、切迫早産の確実な管理法や治療法は未だ確立されておらず、世界各国でも統一されていないのが現状です。
現在、胎児状態評価項目の一つである心拍数モニタリングは、超音波ドプラ法を用いた装置で行われています。
この方法では、超音波を用いて胎児の心臓の動きから心拍数を算出するため、妊娠中期では小さな胎児の心臓に超音波を確実にあて続けることが難しいという課題がありました。
また、妊娠後期では、安定した胎児の心拍数モニタリングが可能ですが、心拍数の詳細な変化を捉えることは出来ませんでした。【図1】
そこで我々は企業(*1)と協力して、母体腹壁から得られる母体信号と胎児の信号が混合した生体電気信号から胎児の微小な生体電気信号を抽出するという全く新しい原理を用いた胎児心拍数モニタリング装置「アイリスモニタ®」を開発し、商品化に成功しました(平成29 年2 月23 日薬事承認取得)。
臨床試験にて妊娠24 週から実績があり、この時期から母体腹壁誘導により非侵襲的に胎児心拍数を計測できる装置では世界初となります。
早産の増加により、妊娠中期での胎児心拍数モニタリングの必要性が高まり、従来品での検査に「アイリスモニタ®」が加わることで胎児のモニタリング精度向上が期待されます。
図1.胎児心拍数計測法の原理と特徴
実際の胎児心電図の計測は、お母さんのおなかの上にいくつかの電極を貼ることで行います。
お母さんのおなかの上から得られる信号には、胎児の心電図以外にお母さんの心電図や筋電図さらには環境ノイズが含まれています。
胎児の心電図の振幅は5μV~20μV程度で、お母さんの心電図の振幅は1000μV、筋電図は100μV程度あります。
我々はその混合信号の中から胎児の心電図だけを抽出する新しい情報理論として参照系独立成分分析法(*2)を作りました。【図2】
図2.胎児の心電図を抽出する新しい情報理論
そして、二つ目の新しい情報理論として、現在、様々な分野で導入が盛んにおこなわれている機械学習で利用されるAIの欠点(膨大な教師データが必要、得られた結果がなぜそうなったのかの検証が困難)を克服した参照系AI(*3)の開発を進めております。
この技術は少数の教師データをもとに自己学習を行いながら高い精度の結果を導くことが可能で、かつ、判定プロセスが検証可能である特徴を持っています。【図3】
図3.新しい機械学習の情報理論
前述したように、早産を始め産科領域ではまだ十分解明されていないことがたくさんあります。
我々は今後、強みである新しい情報理論を武器に、その解明に挑戦していきます。
*1.共同研究企業: アトムメディカル株式会社
*2.参照系独立成分分析法: 特許第4590554号
*3.参照系AI: 特許第7330521号
木村先生は、前述の特許技術を使った東北大学発ベンチャー企業の役員をしています。